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調査研究支援事業(支援事業委員会) 報告

東京都立定時制高等学校「中退予防対策事業」
8年目の報告会

2022年7月28日(木) 18:00~19:30
会場 図書文化大会議室

『東京都立定時制高等学校「中退予防対策事業」8年目の報告会』 は,コロナ感染第7波ピークの中で行われました。久保田哲司主任指導主事〔東京都教育庁指導部高等学校教育指導課〕からも力強いお言葉をいただきましたが,定時制課程だけの実践にとどまらず,全日制課程に向けて実践の幅を広げていくことを誓って終えることができました。会場の大きさから20名定員という限られた方々の希望にしか応えられませんでしたので,皆様と共に共有していただきたく,ここに報告会の様子をまとめました。

加勇田修士氏〔支援事業委員長〕


 はじめに,加勇田支援事業委員長より事業の概要と報告がありました。この事業は平成27年に早稲田大学の河村茂雄先生の研究室に,東京都教育委員会から定時制高校の中退防止のために講師を派遣してほしいという依頼があったことから始まったこと,構成的グループエンカウンター(以下SGEと表記)の講師数名が派遣され,初めこそ乗り気ではなかった学校もあったものの,8年の間で講師と学校とで協力しながら事業が継続されてきたこと,都教委の調査に於いてはSGEが始まった年から定時制高校の1年生の中退者に減少傾向が見られたことなどが報告されました。
 また,今後の展望としては定時制高校のみならず全日制高校においてもこの事業を拡大したいこと,SGEだけではなく,自殺や将来への見通しを持たせられるような「命の授業」なども事業として加えていきたいことなどが述べられました。

 続いて,「東京都教育委員会が把握している成果」として東京都教育庁指導部高等学校教育指導課主任指導主事である久保田哲司氏よりご講演いただきました。平成21年度から令和2年度までの都立高校の長期欠席者は現在約7000人であり,課程別の内訳を見ると,令和2年度では全日制では増加傾向、定時制では減少傾向にあることがグラフにより示されました(図①)。

久保田哲司氏〔東京都教育庁指導部主任指導主事〕

 長期欠席者の理由は多い順に不登校,コロナ感染回避,病気となり,不登校の理由としては不安,無気力であることが説明されました。中途退学者数については平成26年度から比較すると令和2年度までに減少傾向が見られること(図②),長期欠席者が必ずしも中途退学につながっている訳ではないこと,学年が進むにつれて中途退学者は減っていくことに加えて中途退学の理由の多くが学校不適応であることなどが説明されました。これらのことから,高校1年次にこの事業のような人間関係作りなどの対策を講じることが必要であることが考えられることについても言及されました。
 今後はSGEをはじめとする中退防止に向けた学校ごとの取り組みを行うことを東京都の一つの施策として位置づけて全課程で行っていくという計画や,学校だけでなく,家庭や地域,教員外の専門職と連携して生徒の支援を行っていくことなどが話されました。

図①

図②

藤川章氏〔支援事業委員・文教大学非常勤講師〕

 その後,藤川章氏,丸山里奈氏よりこれまでの取り組みについての紹介がありました。
 藤川氏はこの事業が始まった2年目からSGEの講師として定時制高校に行かれており,都道府県レベルの教育委員会と当協議会とが契約をして10数名のガイダンスカウンセラーを派遣するという事業を継続しているところは他にはないことであるとの説明がありました。このような事業を広く伝えて,支援事業の一つの柱としてのSGEを発展させて行きたいとの思いも語られました。また自身の甲州市での実践が話され、ガイダンスカウンセラーの活用やQ-Uによるアセスメントの分析と教員研修,教員が異動しても差がなく働けるための工夫などが紹介されました。定時制高校のSGEでは生徒対象のエクササイズを行うだけでなく教員への研修も必要であること,生徒の実態に合わせたエクササイズを実施していくことの必要性が話されました。

 丸山氏も同じくSGEの講師としてこの事業に関わっており,その経験から小中学校との関連まで広げたお話がありました。SGEの実践をするなかで「話したことのない人と話せた」という生徒がとても多く人間関係作りに効果があること,例えば入学式前など導入の時期を考えて実施することでより効果が得られたことが話されました。

丸山里奈氏〔支援事業委員・スクールソーシャルワーカー〕

質疑応答・意見交換の様子

 この事業とは別に小学校の教員研修の講師としてSGEを実施した際,先生同士の交流が活性化され,先生方が実際に経験して楽しいと感じたことで児童にも実施したいと活動が広がったことについても話されました。高校の中退に結びつくような不登校や不適応は高校から始まるのではなく,小中学校からそのサインが出ているため,小中学校からSGEなどを導入することやその楽しさを先生たちに経験してもらうことが中退防止につながるのではないかという投げかけがありました。

 その後,質疑応答があり,参加されていたSGEの講師として活躍されている先生方からのさらなる実践報告がありました。ワークを通して生き生きした生徒の姿に涙を流される先生がおられたこと,外国籍の生徒の多い高校では印刷物にルビを振る必要があること,SGEの後で担任と生徒の関係性が良くなったことなどが共有され,とても充実した報告会となりました。さらに,参加者からは有効性は感じられるとのことだがエビデンスはあるのかという質問があり,この事業の今後の発展となるヒントをいただきました。
(文責:支援事業委員 伊賀美夕季)

学校での実践の様子

 

大崎高校

いつも管理職や若い教員が参加するので盛り上がります。職員全員で生徒を見守る雰囲気のある学校です。


八王子拓真高校

エンカウンターの場面をHPに載せて学校のPRに活用する等,SGEへの期待が大きい学校です。

当日の講演,実践の紹介の動画はYouTubeにてご覧いただけます。
https://youtu.be/WFaQ0H2aiZw

当日の配布資料はこちらからご覧いただけます。
20220728_中退予防対策事業報告会_配布資料.pdf